劇作家もとい激作家より

「名前をつけて保存」

記憶ほど不確かなものはない。
今日噛んだガムの味なんかすぐ忘れるし、
昨日飲んだ緑茶の香りがどんなだったか、覚えてる人は少ない。
いつか見た映画、聞いた音楽、撫でた女の子の髪、
五日と言わず、三日で忘れていく。

そんな忘れぽっさを補うために、僕らは、パチッと写真に撮る。
プリクラ、デジカメ、写メール。
ちょっとした思い出も、「名前をつけて保存」する。
記録が記憶を補完する。テクノロジーの進歩だ。

でもね、と思う。
もし、写真に撮られず、だから、記録に残されず、
データにも保存されない思い出があった時、
それは、どうなるのだろう?

たとえば、親友が死んだら、
その親友が、大の写真嫌いで、生前の写真が一枚もなかったら、
僕らはその顔を忘れないでいられるだろうか?

数年前に交通事故で死んだ、さびしがりやの青年が、
幽霊になって戻ってくる。
青年の家族、恋人、友人は、彼のことを今でも大切に思ってるのに、
誰も彼の顔だけは覚えてない。
彼の身長、体重、スリーサイズは覚えてるのに、
顔だけは覚えてない。
そんな、悲しい喜劇を書いてみた。


鈴木厚人


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