2018年01月10日
 ■  「わたしを離さないで」と「想像するちから」


真の自分とは何かを知るために、
あるいは、人間とは何かを知るために、
読書は、いつもそのヒントを教えてくれるように思う。

先週は、
カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」と、
松沢哲郎の「想像するちから ~チンパンジーが教えてくれた人間の心」を読んだ。

まず、「想像するちから」について、語ろう。
これは、小説ではなく、学術書である。
人間とは何かを知るために、生涯をチンパンジー研究に捧げた著者の遺書のような本だ。
学術書なのに、いくつもの詩的な言葉が出てくる。
「心は化石に残らない」
「心に愛がなければ、どんなに美しいことばも、相手の胸に響かない」
後者は、聖パウロのことばだそうだ。

私が、とりわけ、心を捕まれたのは、
母と子が互いに見つめ合うという行為は、自然界ではとても珍しく、
ホミノイド(ヒトやチンパンジー等)だけが、それをするという記述だ。
しかも、チンパンジーでさえも、見つめ合う時間は、とても短いらしく、
人間ほど、しっかりは見つめ合わないのだそうだ。
見つめ合う、というのは、私たちが思っている以上に、人間的な行為なのである。

もう一つ、この本で、重要なポイントは、
人間よりも、チンパンジーのほうが、パッと何かを見てそれを記憶する能力が優れている、という記述だ。
別の言葉で言い換えると、チンパンジーのほうが、今を見る力が長けている。
人間は、未来や過去を想像する力が長けている。
同様に、他者が何を考えているのか、想像する力が長けている。
未来や過去を想像する力が長けているがゆえに人間は、絶望し、あるいは、希望を持つ。
他者が何を考えているのか想像する力が長けているからこそ、他者の痛みがわかる。
それが、人間的だということだ。

それを踏まえて、「わたしを離さないで」を読むと、
さらにおもしろく、読めるのではないかと思う。
「わたしを離さないで」は、ネタバレすると台無しになる小説なので、
これ以上は、内容については書かない。

ある小説を読む時に、それに適した年齢があると思う。
カズオ・イシグロの小説も、
30代後半以上にならないとその面白さがわからないのではないか。
というのは、私は、高校生の時に、カズオ・イシグロの「日の名残り」を読んだことがあるのだが、
さっぱり面白さがわからなかったからだ。
今回、「わたしを離さないで」を読んでみて、
文章が自分の記憶のヒダをチクチク刺してくる感じが、痛いのに心地良かった。
「日の名残り」も、是非読み直してみたい。

投稿者 atsuto : 2018年01月10日 10:20

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